赤い蝋燭
あかいろうそく
Red Candle
(1936)
新見南吉
Niimi Nankichi
(1913-1943)
Nankichi Niimi was a children's literature writer. Though he passed away at the young age of 29, his works are still cherished by people today. Since this story was also written for children, it avoids overly difficult words. It is a very short, charming tale. Furthermore, this work is written in a slightly old-fashioned polite style in places. This style gives the reader a very refined impression. (About 1200 letters)
山から里の方へ遊びにいった猿が一本の赤い蝋燭を拾いました。赤い蝋燭は沢山あるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を花火だと思い込んでしまいました。
猿は拾った赤い蝋燭を大事に山へ持って帰りました。
山では大変な騒ぎになりました。何しろ花火などというものは、鹿にしても猪にしても兎にしても、亀にしても、鼬にしても、狸にしても、狐にしても、まだ一度も見たことがありません。その花火を猿が拾って来たというのであります。
「ほう、すばらしい」
「これは、すてきなものだ」
鹿や猪や兎や亀や鼬や狸や狐が押し合いへしあいして赤い蝋燭を覗きました。すると猿が、
「危ない危ない。そんなに近よってはいけない。爆発するから」といいました。
みんなは驚いて尻込みしました。
そこで猿は花火というものが、どんなに大きな音をして飛び出すか、そしてどんなに美しく空にひろがるか、みんなに話して聞かせました。そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
「それなら、今晩山の頂上《てっぺん》に行ってあそこで打ち上げて見よう」と猿がいいました。みんなは大変喜びました。夜の空に星をふりまくようにぱあっとひろがる花火を眼に浮かべてみんなはうっとりしました。
さて夜になりました。みんなは胸をおどらせて山の頂上《てっぺん》にやって行きました。猿はもう赤い蝋燭を木の枝にくくりつけてみんなの来るのを待っていました。
いよいよこれから花火を打ち上げることになりました。しかし困ったことが出来ました。と申しますのは、誰も花火に火をつけようとしなかったからです。みんな花火を見ることは好きでしたが火をつけにいくことは、好きでなかったのであります。
これでは花火はあがりません。そこで「くじ」をひいて、火をつけに行くものを決めることになりました。第一にあたったものは亀でありました。
亀は元気を出して花火の方へやって行きました。だがうまく火をつけることが出来たでしょうか。いえ、いえ。亀は花火のそばまで来ると首が自然に引っ込んでしまって出て来なかったのでありました。
そこで「くじ」がまたひかれて、こんどは鼬が行くことになりました。鼬は亀よりは幾分ましでした。というのは首を引っ込めてしまわなかったからであります。しかし鼬はひどい近眼でありました。だから蝋燭のまわりをきょろきょろとうろついているばかりでありました。
遂々猪が飛び出しました。猪は全く勇ましい獣でした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
みんなはびっくりして草むらに飛び込み耳を固くふさぎました。耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
しかし蝋燭はぽんともいわずに静かに燃えているばかりでした。
【山から/里の/方へ/遊びに/行った】【猿】が/一本の/赤い/蝋燭を/拾いました。赤い/蝋燭は/【沢山/ある】【もの】では/ありません。それで/猿は/赤い/蝋燭を/《花火だ》と/思い込んで/しまいました。
猿は/【拾った】赤い/【蝋燭】を/大事に/山へ/持って/帰りました。
山では/大変な/騒ぎに/なりました。何しろ/【花火などと/いう】【もの】は、/鹿に/しても/猪に/しても/兎に/しても、亀に/しても、鼬に/しても、狸に/しても、狐に/しても、まだ/一度も/【見た】【こと】が/ありません。その/花火を/猿が/《拾って/来た》と/いうので/あります。
「ほう、すばらしい」
「これは、/すてきな/ものだ」
鹿や/猪や/兎や/亀や/鼬や/狸や/狐が/押合いへしあいして/赤い/蝋燭を/覗きました。すると/猿が、/
「危い/危い。そんなに/近よっては/いけない。爆発するから」と/いいました。
みんなは/驚いて/後込しました。
そこで/猿は/《【花火と/いう】【もの】が、/どんなに/大きな/音を/して/飛び出すか、》そして/《どんなに/美しく/空に/ひろがるか》、/みんなに/話して/聞かせました。《そんなに/美しい/ものなら/見たいものだ》と/みんなは/思いました。
「それなら、/今晩/山の/頂上に/行って/あそこで/打上げて/見よう」と/猿が/いいました。みんなは/大変/喜びました。【夜の/空に/星を/ふりまくように/ぱあっと/ひろがる】【花火】を/眼に/浮かべて/みんなは/うっとりしました。
さて/夜に/なりました。みんなは/胸を/おどらせて/山の/頂上に/やって/行きました。猿は/もう/赤い/蝋燭を/木の/枝に/くくりつけて/【みんなの/来る】【の】を/待って/いました。
いよいよ/これから/【花火を/打上げる】【こと】に/なりました。しかし/【困った】【こと】が/出来ました。と/【申します】【の】は、/誰も/花火に/火を/つけようと/しなかったからです。みんな/【花火を/見る】【こと】は/好きでしたが/【火を/つけに/いく】【こと】は、/好きでなかったので/あります。
これでは/花火は/あがりません。そこで/【くじを/ひいて、/[火を/つけに/行く][もの]を/決める】【こと】に/なりました。【第一に/あたった】【もの】は/亀で/ありました。
亀は/元気を/出して/花火の/方へ/やって/行きました。だが/【うまく/火を/つける】【こと】が/出来たでしょうか。いえ、/いえ。亀は/花火の/そばまで/来ると/首が/自然に/引っ込んで/しまって/出て/来なかったのでありました。
そこで/くじが/また/ひかれて、/こんどは/【鼬が/行く】【こと】に/なりました。鼬は/亀よりは/幾分/ましでした。と/【いう】【の】は/首を/引込めて/しまわなかったからであります。しかし/鼬は/ひどい/近眼でありました。だから/蝋燭の/まわりを/きょろきょろと/うろついているばかりで/ありました。
遂々/猪が/飛び出しました。猪は/全く/勇ましい/獣でした。猪は/ほんとうに/やっていって/火を/つけて/しまいました。
みんなは/びっくりして/草むらに/飛び込み/耳を/固く/ふさぎました。耳ばかりでなく/眼も/ふさいで/しまいました。
しかし/蝋燭は/《ぽん》とも/いわずに/静かに/燃えて/いるばかりでした。
【山から/里の/方へ/遊びに/行った】【猿】が/一本の/赤い/蝋燭を/拾いました。
S猿が O蝋燭を V拾いました。
・In Japanese, explanatory clauses are placed before the noun they describe.
【山から里の方へ遊びに行った】【猿】=
A monkey who went down from the mountains toward the village to play
・一本の→蝋燭を、赤い→蝋燭を
赤い/蝋燭は/【沢山/ある】【もの】では/ありません。
S蠟燭は Nものでは/ありません
・【もの】(物)things which 【沢山/ある】
それで/猿は/赤い/蝋燭を/《花火だ》と/思い込んで/しまいました。
S猿は O蝋燭を N花火だ と V思い込んで/しまいました。
・The monkey thought that (O is N)蝋燭 is 花火
・思い込む(おもいこむ) ― 思い込んで+しまう(helping verb)
猿は/【拾った】赤い/【蝋燭】を/大事に/山へ/持って/帰りました。
S猿は O蝋燭を V持って/帰りました
・【蝋燭】which he 【拾った】
・大事に(Adv.)→持って/帰りました。This is NOT 大事な/山 "an important mountain."
山では/大変な/騒ぎに/なりました。
(S)V Hidden subject=“the situation”→The situation became a tremendous uproar.
・山では 「で」indicates “Place of the act”, this section is not the subject.
・「は」indicates that has already been mentioned in the preceding sentence.
(「は」is a Context marker.)
何しろ/【花火などという】【もの】は、/鹿に/しても/猪に/しても/兎に/しても、亀に/しても、鼬に/しても、狸に/しても、狐に/しても、まだ/一度も/【見た】【こと】が/ありません。
S鹿に/しても~狐に/しても O【花火などという】【もの】は V見たことがありません。
・鹿にしても=Emphasis of "鹿も" When「も」is used, 「が」「を」become invisible.
・【花火などと/いう】【もの】は=“Things that people call Hanabi”. When the context marker「は」is used, 「が」「を」become invisible.
・見た/ことが/ありません(=ない)
(【見た】【こと】が ない =they don’t have an experience of 【見た】)
【こと】is a formal noun which makes Noun clause.
その/花火を/猿が/《拾って/来た》と/いうので/あります。
・Normal order is S猿が「その花火を拾って来た」と Vいうのであります。
In this case 「その/花火を」is emphasized.
・いうのであります =いうのです(いうんです)
「ほう、すばらしい」
・(S)IA (It is wonderful.)
「これは、/すてきな/ものだ」
Sこれは Nものだ
鹿や/猪や/兎や/亀や/鼬や/狸や/狐が/押し合いへしあいして/赤い/蝋燭を/覗きました。
S鹿や~狐が V1押し合いへしあいして O蝋燭を V2覗きました
すると/猿が、/
「危い/危い。そんなに/近よっては/いけない。爆発するから」と/いいました。
S猿が 「~」と Vいいました。He said that「~」.
■「危い/危い。そんなに/近よっては/いけない。爆発するから」
・Normal order is "爆発するから、そんなに近よってはいけない"
・~てform+は/いけない(not good) "Don’t do ~."
・Sentence+から because Sentence "because it'll explode"
みんなは/驚いて/尻込みしました。
Sみんなは V1驚いて V2尻込みしました
そこで/猿は/《【花火と/いう】【もの】が、/どんなに/大きな/音を/して/飛び出すか、》そして/《どんなに/美しく/空に/ひろがるか》、/みんなに/話して/聞かせました。
S猿は O《1~》、そして《2~》(を) V話して/聞かせました
・話して/聞かせる tell and let everyone hear (聞く ― 聞かせる causative form)
■《【花火と/いう】【もの】が、/どんなに/大きな/音を/して/飛び出すか、》そして/《どんなに/美しく/空に/ひろがるか》、
・どんなに ~か Question in a sentence
・【花火と/いう】【もの】が Aどんなに~ B どんなに~ (one subject for both sentences)
A《how loud a firework can be as it shoots up》
B《how beautifully a firework spread across the sky》
・美しく(Adv.)→ひろがるか This is NOT 美しい/空 "a beautiful sky"
《そんなに/美しい/ものなら/見たい/ものだ》と/みんなは/思いました。
《 》と Sみんなは V思いました。
■《そんなに/美しい/ものなら/見たい/ものだ》
◎Sentence1なら Sentence2 “ IF Sentence1, Sentence2,” "In such cases"
※Noun Sentence and Na-Adj. Sentence, Present Aff. Without だ ものなら、元気なら
All the other forms Sentence+なら おいしいなら、行くなら
○Sentence1 (S)(花火が) Nものなら
○Sentence2 (S)(私たちは) V見たい/ものだ
・Sentence+ものだ Expressing admiration
「それなら、/今晩/山の/頂上に/行って/あそこで/打上げて/見よう」と/猿が/いいました。
「~」と S猿が Vいいました
■「それなら、/今晩/山の/頂上に/行って/あそこで/打上げて/見よう」
・「行って+打ち上げて and 見よう」2 verbs and (after that) let’s see.
・見る ― 見よう volitional form "Let's see."
みんなは/大変/喜びました。
Sみんなは V喜びました
【夜の/空に/星を/ふりまくように/ぱあっと/ひろがる】【花火】を/眼に/浮かべて/みんなは/うっとりしました。
Sみんなは O花火を V1眼に/浮かべて V2うっとりしました
・【花火】, which 【夜の/空に/星を/ふりまくように/ぱあっと/ひろがる】
・Sentenceように =as if / like ふりまくように(Adv.)→ひろがる
・ぱあっ Onomatopoeia
さて/夜に/なりました。
(S)(時間は) Vなりました
・In Japanese we don’t have formal subjects like “it”.
みんなは/胸を/おどらせて/山の/頂上に/やって/行きました。
Sみんなは O胸を V1おどらせて V2やって/行きました
・胸を/躍らせる(おどらせる)"to let their hearts pound"="to get excited"
・「やって/行きました」is now one word. This verb is an emphatic form of 「行く」.
猿は/もう/赤い/蝋燭を/木の/枝に/くくりつけて/【みんなの/来る】【の】を/待って/いました。
S猿は O1蝋燭を V1くくりつけて O2【みんなの/来る】【の】を V2待って/いました
・In clauses within sentences, such as modifying clauses, the particle が indicating the subject may change to の. (This is referred to as a “small subject”)
みんなが=みんなの
・【の】is a particle but it is used as a noun to form a noun clause.
いよいよ/これから/【花火を/打上げる】【こと】に/なりました。
(S)(the situation) Vなりました
"(The situation) is decided to launch the firework now."
しかし/【困った】【こと】が/出来ました。
S【困った】【こと】が V出来ました(できました)
・【こと】is a formal noun.
と/【申します】【の】は、/誰も/花火に/火を/つけようと/しなかったからです。
S誰も O火を Vつけようと/しなかった
"That's because no one tried to light the fireworks."
・と/申しますのは 申します is the humble word of 言います. This sections became one conjunction meaning “when it comes to”, “as for”, “regarding”, “because”. =というのは
This phrase is often used with ~からです/からだ(which indicates "reason")
みんな/【花火を/見る】【こと】は/好きでしたが/【火を/つけに/いく】【こと】は、/好きでなかったので/あります。
◎Sentence1が、Sentence2 "Sentence1 but Sentence2"
○Sentence1 As for みんな、S【花火を/見る】【こと】は NaA好きでした but
○Sentence2 S【火を/つけに/いく】【こと】は NaA好きでなかったので/あります
・好きだ is a Na-adjective.
(Person)は/(Thing)が/好きだ is the basic pattern.
"As for Person, Thing is preferable". ="Person likes Thing".
・「は」particle in this sentence indicate “comparison” and Topic marker は becomes invisible. (みんなは=みんな) Aは/好きでしたが、BUT Bは/好きでなかったのであります。
これでは/花火は/あがりません。
S花火は Vあがりません
・あがる(上がる)IV
・これでは“in this case” 「は」is a topic marker, 「で」particle indicates “in” (this situation), not “Subject”.
そこで/【くじを/ひいて、/[火を/つけに/行く][もの]を/決める】【こと】に/なりました。
(S)(the situation) Vなりました。
・[もの person]who[火を/つけに/行く]
【第一に/あたった】【もの】は/亀で/ありました。
S【第一に/あたった】【もの Person】は N亀でありました(=亀でした)
・あたった ― あたる 当たる "to be selected"
亀は/元気を/出して/花火の/方へ/やって/行きました。
S亀は O1元気を V1出して(だして) V2やって/行きました
だが/【うまく/火を/つける】【こと】が/出来たでしょうか。
(S)(亀は) V出来たでしょうか
・うまく(Adv.)→つける
いえ、/いえ。亀は/花火の/そばまで/来ると/首が/自然に/引っ込んで/しまって/出て/来なかったので/ありました。
◎Sentence1と、Sentence2 This「と」is a conjunctive particle.
“Sentence1” happens, then “Sentence2” happens, too.
Ex. このボタンを押すと、お茶が出ます(でます)。
○Sentence1 S1亀は V1来る と、
○Sentence2 S2首が V2引っ込んで/しまって V3出て/来なかったのでありました
そこで/くじが/また/ひかれて、こんどは/【鼬が/行く】【こと】に/なりました。
◎Sentence1(て)、Sentence2
○Sentence1 Sくじが Vひかれて
・ひかれて ― ひかれる Passive form ― ひく 引く
○Sentence2 (S)(the situation) Vなりました
"(The situation) is decided that 鼬が/行く"
鼬は/亀よりは/幾分/ましでした。
S鼬は NaAましでした
・Comparison between two things 亀よりは=than the turtle
・「は」This particle emphasizes the difference between the turtle and the weasel.
と/いうのは/首を/引っ込めて/しまわなかったからで/あります。
(S)(亀は) O首を V引っ込めて/しまわなかった
・と/いうのは This sections became one conjunction meaning “when it comes to”, “as for”, “regarding”, “because”. This phrase is often used with ~からです/からだ(which indicates "reason")
しかし/鼬は/ひどい/近眼で/ありました。
S鼬は N近眼で/ありました=近眼でした
だから/蝋燭の/まわりを/きょろきょろと/うろついて/いるばかりで/ありました。
S鼬は Oまわりを Vうろついて/いる
・うろついて ― うろつく
・ばかりで/ありました=だけで/ありました ばかり/だけ="only"
遂々/猪が/飛び出しました。
S猪が V飛び出しました
・飛び出しました ― 飛び出す とびだす
猪は/全く/勇ましい/獣でした。
S猪は N獣でした
・全く In this context, "very"
猪は/ほんとうに/やっていって/火を/つけて/しまいました。
S猪は V1やっていって O火を V2つけて/しまいました
みんなは/びっくりして/草むらに/飛び込み/耳を/固く/ふさぎました。
Sみんなは V1びっくりして V2飛び込み O耳を V3ふさぎました
・飛び込み ― 飛び込む Verb stem is used like てform.
耳ばかりで/なく/眼も/ふさいで/しまいました。
(S)(みんなは) O1耳ばかりで/なく O2眼も Vふさいで/しまいました。
・AばかりでなくBも=”not only A but also B”
・V~てform+しまう
しかし/蝋燭は/《ぽん》とも/いわずに/静かに/燃えて/いるばかりでした。
S蝋燭は 《~》とも V1いわずに V2燃えて/いる
・ぽん Onomatopoeia “PON!”
・いわずに=いわないで ― 言う
|山 やま|から|里 さと|の|方 ほう|へ|遊び あそび|にいった|猿 さる|が|一本 いっぽん|の|赤い あかい||蝋燭 ろうそく|を|拾いました ひろいました|。赤い蝋燭は|沢山 たくさん|あるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を|花火 はなび|だと|思い込んで おもいこんで|しまいました。
・方 ほう→ direction / かた→ person
(Cf. 話し方 はなしかた How to read)
In this context “to the to the direction of the village”
猿は拾った赤い蝋燭を|大事に だいじに|山へ|持って もって||帰りました かえりました|。
山では|大変な たいへんな||騒ぎ さわぎ|になりました。|何しろ なにしろ|花火などというものは、|鹿 しか|にしても|猪 しし|にしても|兎 うさぎ|にしても、|亀 かめ|にしても、|鼬 いたち|にしても、|狸 たぬき|にしても、|狐 きつね|にしても、まだ|一度も いちども|見たことがありません。その花火を猿が拾って来たというのであります。
・大変な たいへんな NaA in this context, “serious; grave; dreadful”
・騒ぎ さわぎ N ← 騒ぐ さわぐ V
・猪 しし The modern reading of this kanji is いのしし, but しし was also used previously.
「ほう、すばらしい」
「これは、すてきなものだ」
鹿や猪や兎や亀や鼬や狸や狐が|押合い おしあい|へしあいして赤い蝋燭を|覗きました のぞきました|。
・押し合いへしあい "pushing and shoving"
すると猿が、
「|危ない あぶない|危ない。そんなに|近よっては ちかよっては|いけない。|爆発 ばくはつ|するから」といいました。
みんなは|驚いて おどろいて||尻込み しりごみ|しました。
そこで猿は花火というものが、どんなに大きな音をして|飛び出す とびだす|か、そしてどんなに|美しく うつくしく||空 そら|にひろがるか、みんなに|話して はなして||聞かせました きかせました|。そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
「それなら、|今晩 こんばん|山の|頂上 てっぺん|に行ってあそこで|打ち上げて うちあげて|見よう」と猿がいいました。みんなは大変|喜びました よろこびました|。|夜 よる|の空に|星 ほし|をふりまくようにぱあっとひろがる花火を|眼 め|に|浮かべて うかべて|みんなはうっとりしました。
・頂上 The original reading of this kanji is ちょうじょう, but the author of this work has added the furigana てっぺん. The meaning is the same, but てっぺん sounds cuter and has a conversational ring to it.
さて夜になりました。みんなは|胸 むね|をおどらせて山の|頂上 てっぺん|にやって行きました。猿はもう赤い蝋燭を|木の枝 きのえだ|にくくりつけてみんなの来るのを|待って まって|いました。
・胸を おどらせる(躍らせる) "to get excited"
いよいよこれから花火を打ち上げることになりました。しかし|困った こまった|ことが|出来ました できました|。と|申します もうします|のは、|誰 だれ|も花火に|火 ひ|をつけようとしなかったからです。みんな花火を見ることは|好き すき|でしたが火をつけにいくことは、好きでなかったのであります。
・出来ました できました Currently, this word is written in hiragana.
これでは花火はあがりません。そこで「くじ」をひいて、火をつけに行くものを|決める きめる|ことになりました。|第一 だいいち|にあたったものは亀でありました。
亀は|元気 げんき|を|出して だして|花火の|方 ほう|へやって行きました。だがうまく火をつけることが|出来た できた|でしょうか。いえ、いえ。亀は花火のそばまで来ると|首 くび|が|自然に しぜんに||引っ込んで ひっこんで|しまって|出て来なかった でてこなかった|のでありました。
そこで「くじ」がまたひかれて、こんどは鼬が行くことになりました。鼬は亀よりは|幾分 いくぶん|ましでした。というのは首を引っ込めてしまわなかったからであります。しかし鼬はひどい|近眼 きんがん|でありました。だから蝋燭のまわりをきょろきょろとうろついているばかりでありました。
・近眼 きんがん The term 近視 きんし is now more commonly used.
|遂々 とうとう|猪が|飛び出し とびだし|ました。猪は|全く まったく||勇ましい いさましい||獣 けだもの|でした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
みんなはびっくりして|草むら くさむら|に飛び込み|耳 みみ|を|固く かたく|ふさぎました。耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
しかし蝋燭はぽんともいわずに|静かに しずかに||燃えて もえて|いるばかりでした。
・遂々 とうとう Currently, this adverb is written in hiragana.
・全く まったく In this context, "very"
・々 This is not a kanji character, but a symbol meaning “repeat the same kanji”.
Ex. 遂遂 → 遂々 /人人 → 人々